何気なく本屋に行った時に、たまたま棚に置いてあり、気になったので買いましたが、がん治療についてわかりやすく書かれていて、おもしろかったです。
日本人はほとんどがんで亡くなっているので、将来のためにも一度読んでおくことをお勧めしたい本でした。
・対談形式の内容
この本は、老人ホーム「同和園」付属診療所所長で、市民グループ「自分の死を考える集い」を主催していて、「大往生したけりゃ医療とかかわるな」が50万部を超えるベストセラーになった医師「中村仁一」さんと、慶応義塾大学医学部放射線科講師で、がんの放射線治療を専門にし、乳がんの乳房温存療法を積極的にすすめ、「患者よ、がんと闘うな」「がんの放置療法のすすめ」などを執筆した「近藤誠」さんの対談を書籍化したものです。
内容は、がん治療に関する本当の話しや、がんについての誤解を解くための説明、なぜ医者はがんの「早期発見、早期治療」を受けさせたり、人間ドックをしたがるのかなど、またがんは基本的に最後は痛くて苦しみながら死ぬということの間違いを指摘していて、読んでいてがんに対する考え方が変わりました。
・がん治療の誤解
抗がん剤治療ってがんになったら必ずするもので、がんを治すためには必要なモノだと思っていました。しかし、日本人のがんの9割を占める「固形がん」は抗がん剤で治ることはなく、延命効果さえ「ある」ときちんと証明されたデータは見当たらないそうです。
医者が言う抗がん剤が「効く」というのは、がんが治る、延命するという意味ではなくて「がんのしこりが一定程度、小さくなる」ということだと説明されていました。
となると、抗がん剤にお金を払って苦しい思いをしてまでがんばって、結局効果が出るのかどうかわからないのなら抗がん剤なんてやらなければいいのではないかと思います。
身内の医療関係者に聞いても、自分がもしがんになっても抗がん剤治療はやらないだろうと言っていましたし、この本でも著者の知り合いの外科医は、抗がん剤を使わないで、放射線治療や一切治療しないという人もいると紹介していました。
なんでそんな無意味なことをするんでしょう?
・利権ががんを治療させる
「抗がん剤は9割はいらない」となったら、医者の仕事は減ってしまうので、医療業界は抗がん剤を使い続けるだろうと言っています。昔は、40代、50代でがんで亡くなるのはかわいそうだから、人間ドックをして、病気を早めに発見して治療しようとしていましたが、今では70代、80代でもがんを見つけようと健診を勧めるそうです。
しかし、がんとは老化なので、年寄りが健診を受けたらがんが見つかりやすいのは当たり前で、治せないのに、治すためのパターン化した医療を行うから患者が苦しみ、抗がん剤によって苦しんだ末にむしろ命が縮むことも多いと言っています。
そして、日本人の医療信仰で、薬を出してくれない医者より、たくさん薬を出してくれるのが良い医者という風潮も治療することに依存してしまっているのではないかと説いています。
著者が勤めている老人ホームでは、がん治療をしないで、痛い時や生活に支障が出るときだけ、痛み止めや狭くなったのどを広げる手術などをして、静かに息を引き取っていく人も多いそうです。
・どうにもならないものをどうにかしようと思うから辛い
治らないがんと闘い、治そうと思うから辛いのだとも言っていました。なんだかこの本を読むと、そういうところに医療がつけ込んで、不必要な薬を出して、患者を苦しめて利益を得ているような気もしてきます。もちろん、患者を治そうとがんばっている医者もいると思いますが。
病気を受け入れて、病気と共に生きていくという考えもあるのだと気付きました。
・データを鵜呑みのしないことの大切さ
著者が医療に関する論文のデータも鵜呑みのすると危険だと警鐘を鳴らしていました。例えば、本文にこんな話しがありました。
これはまだどこにも言っていないんですが、「転移がんの治療の途中で消息不明になった人は、一定期間をおいて死んだ」と統一した扱いにすると、世の中のデーターのすべてと言ってもいいぐらい、抗がん剤の治療をしたかしないかでの「生存率の差」はなくなるんです。
ぼくが読んだ論文では、抗がん剤を使わないグループは、全員が最後は「死んだ」とされていました。ところが抗がん剤を使った方は、意識的にか無意識か、多くが途中で「消息不明」になっていて、「生きてる」ことにされていたんです。
と、いうことは、抗がん剤が効いているように都合の良い結果を出すように答えを導くことも出来てしまうわけです。結果はわからないのに。
医療関係の論文だからって、なんでも鵜呑みにして信じてはいけないのですね。
また、日本人の平均寿命は世界的に見ても高いという話も、老人が長生きしているということもありますが、子どもが死ににくくなったということもあるという、統計のワナのような話もありました。
・感想
身内でがんで死んでしまった人もいるので、この本を読んで納得できた部分もたくさんありました。
もし、将来自分ががんにかかったら、医者の言うことを聞いて、治療の判断は自分で考えたいと思うようになりました。
人間は動物なので、生にしがみつくように出来ていますし、それを変えることは難しいと思いますが、がんという死と隣合わせの病気に自分がなったときに、延命することだけでなく、死を意識して、生を見つめなおして、残りの人生を生きるという考えもあるのだということを忘れないように生きていこうと思いました。
将来がんになったときのために、一度読んで手元に置いておくと良いと思いました。