横山光輝三国志が好きで全巻持っていますが、気になっていたのが「正史三国志」。
ネットでの三国志ネタで「演義では〇〇だけど、正史では〇〇だよね」というネタを見つけると、創作ものの演義しか知らないことに劣等感を感じて「いつかは正史三国志を読むぞ!」と思っていました。
そんなときに、いつも読んでいる「世界史劇場」シリーズで正史三国志を見つけたので読んでみると、いろいろな面白い発見があったので紹介します。
世界史劇場とは?
世界史劇場とは、河合塾の人気講師が出している世界史の解説本で、とてもわかりやすくて歴史の流れがつかみやすいのが特徴です。
一冊購入したら面白くて、どんどん増えてしまいました。
「日清日露戦争はこうして起こった」は、日本の近代化の流れを知るうえでかなり勉強になるのでおすすめ。
著者である神野さんは三国志が好きみたい。
世界史劇場のシリーズのなかでは、度々三国志のエピソードがたとえ話として登場します。
「正史三国志」の本の分厚さを見れば、どれだけ好きかわかりますよね(笑
分厚いですが、とてもわかりやすく読みやすい一冊。
新しい人物が登場するたびに丁寧な解説をつけてくれていて、助かりました。
横山光輝三国志を読んでいると正史三国志は頭に入ってきやすいです。
今回、「世界史劇場 正史三国志」を読んで、面白かった部分を紹介します。
黄巾の乱の首謀者張角の人を操る手口
三国志序盤では、漢王朝の世の中が乱れて、そこに「黄巾の乱」がおこります。
黄巾の乱の首謀者である「張角」は、「大賢良師」と称して「太平道」という宗教を始めますが、これが大当たり。
犯した罪を懺悔させるという行為で、病気を治すことで大勢の信者が集まって、それが黄巾の乱につながっていきます。
「犯した罪を懺悔」→「病気が治る」というのは古今東西の宗教のテンプレで、心の重荷を取ることと、それで病気が治ると信じる「プラシーボ効果」で、治るというトリック。
もし治らなかったというと「信仰心と懺悔が足りない!」と責められるので、みんな治らないとは言えません。
いつの時代も同じ手口で宗教は拡大していきます。
特に世の中が荒れるときは、人の心に不安がくすぶるので、宗教にはまりやすいです。
劉備が悪いことをすると張飛のせいになる
三国志演義では劉備はとても徳があり、みんなから慕われている人で、悪いことなんてしないというイメージですが、実際は違います。
それどころか、自分が受けた地位に文句を言うこともありました。
黄巾の乱の鎮圧のあと、今で言う「警察署長」の地位をもらうのですが、その地位に不満がありました。
その結果、上司を縛り上げて棒で200回叩いて逃げました。
こういうダークな面もある劉備ですが、この話は演義だと張飛のせいにされています。
では、なんで劉備が良い人になっているでしょう?
最初に正史三国志が作られたのですが、あまり面白みがありませんでした。
そこで、民間伝承のエピソードを混ぜていったのですが、そのエピソードが蜀が正当な王朝の流れを組むという視点だったからです。
ちなみに「正史三国志」は、魏が正統な王朝という視点です。
正史三国志は晋王朝が書かせたものです。
漢が魏に王朝をゆずり、魏が晋に王朝を譲ったということにしないと、晋の立場がなくなるから。
「演義」とは「正統王朝である蜀の義を演(の)べる」という意味があるので、演義をベースにした三国志では、魏を漢王朝を奪う悪者にして、それを倒そうとする蜀という立場になっています。
本書では、このあたりがしっかり解説されていて、すっきり頭に入ってきました。
曹操が優れていたのは決断力と行動力
曹操といえば、戦が強かったり、カリスマがあり多くの人を引きつけるなどの魅力があげられますが、正史三国志から冷静の彼の功績をみると、その凄さは「決断力と行動力」だと分析できます。
袁紹が漢室を権威が落ちているので保護する必要はないと考えている間にも、曹操はすぐに行動を開始して、漢室を保護しています。
三国志序盤に曹操が活躍できたのは、この決断力と行動力だったのです。
孔明は人を見る目がなかった
三国志演義では、孔明は向かうところ敵なしの無敵状態。
実際も孔明は戦ではほぼ負け知らずの最強の軍師でした。
しかし、孔明でも人を見る目がなかったという有名なエピソードが「泣いて馬謖を斬る」です。
孔明が「絶対にここで守ってろよ、動くなよ、絶対だぞ」と馬謖に再三注意して守らせた持ち場を動いてしまい、それがきっかけになって戦局が大きく不利になった件。
ダチョウ倶楽部なら動いて正解だったんですけどね〜。
この件の責任を取らせる形で、孔明はお気に入りの馬謖を処刑しなければいけなくなりました。
馬謖は周りからは「実際もないのに口ばっかり達者」と言われていました。
しかも、軍の指揮はこのときが初めて。
普通、大事な局面では失敗しない策を取るのです。
しかし、馬謖の才能を高く買っていた孔明が、簡単な作戦で彼に手柄をたてさせたかったというのが本音。
みんなから反対されたの無理に馬謖を採用した、人を見る目がなかった孔明の失敗です。
現代でも、社長が仕事はできないけど、ご機嫌取りがうまい人を周りに配置して会社を潰すなんてこともありますよね。
人事に私情をはさんではいけないという良い例ですね。
阿斗は実は名君か
最近「実は〇〇は無能じゃなかった」という定説を覆すパターンが流行っていますよね。
日本で言えば、
- 今川義元の息子の今川氏真
- 武田信玄の息子の武田勝頼
個人的には、武田勝頼はしっかり引き継ぎをしなかった信玄の責任が大きいと感じています。
三国志の無能代表といえば劉備の息子の阿斗。
中国では、今でも「阿斗」というとアホという意味があります。
この阿斗も最近のはやりに乗っかって「実は無能じゃなかった!」説が出ていますが、著者は思いっきり否定していて笑えました。
阿斗が無能じゃなかった説の根拠としては、40年も治世を続けていたということですが、実際は、国の運営は優秀な側近がおこなっていて、阿斗は居ただけ。
蜀が滅亡したのは、国を乗っ取ろうとした悪い側近が阿斗に近づいて、阿斗に政治をやらせたためと著者は言っています。
今の社会でも、無能な社長でも側近が優秀で、すべて側近に任せればうまく会社が回るということもありますよね。
ちなみに著者は阿斗が発達障害だったという説を主張しています。
そう考えてエピソードを読み解くと、空気が読めない人だったというエピソードも納得できます。
本の評価は
正史三国志の世界がとてもわかりやすく頭に入ってきました。
各章が6ページほどなので、頭に入りやすいですし、字が大きくて読みやすい(笑
各章の頭には、その章の全体像を図にまとめてくれているので、すっきり理解できます。
さすがは河合塾の有名講師。
この人の世界史の授業をとっていたら、センター試験で世界史を選んでいたかもしれません。
まとめ
正史三国志には「なぜ歴史を学ぶのか?」という問いの答えが入っています。
三国志は王朝の勃興から滅亡に至るまでの流れが何度もある時代です。
そんな時代からは現代でも通じる、
- 組織が崩壊する理由
- 時流に乗る大切さ
- 混乱する世の中で活躍する方法
- 混乱する世の中での人間関係の構築
など、多くのことが学べます。
正史三国志を知りたいと思っている人には、とてもおすすめの一冊です。