塾といえば「学校の成績を上げてくれる」「受験対策をして希望校に入る手助けをしてくれる」というイメージがありませんか?
しかし、最近は学校の成績や授業にまったく関係ないことを教えてくれる子供向けの塾が注目されています。
その先がけである「探究学舎」の代表「宝槻泰伸」さんが、授業の内容を公開した本を出版しました。
テーマは「元素」。
高校のときに化学がまったくわからなくて大嫌いだったのですが、この本を読んだら元素について知りたくなりました。
そんな探究学舎の行う「子供が熱狂する授業」を紹介します。
探求学舎とは?
探求学舎とは、東京にある塾ですが、普通の塾とは一味も二味も違っている、今話題の塾です。
探求学舎は成績を良くすることをしないし、テストもない。入塾試験も無いし、学校の授業とはまったく関係無いことをする。
しかし、大人気の塾で子供たちは元素や宇宙、生物の進化などをどんどん覚えて自分から勉強したくなります。
それが探求学舎という塾です。
探求学舎の代表である「宝槻泰伸」さんは教育熱心なちょっと変わった父親に育てられ、その体験が現在の塾を作るきっかけになっています。
父親の教育とは、
- 学校を休んで歴史のゲームをやらせる
- 漫画や映画で学ばせる
- 親子で賭けマージャンをしてイカサマをする
- 学校休んでヨーロッパ、アメリカ旅行
などなどパワフルでぶっ飛んでいる教育をした宝槻さんの父親。
しかし、そのすべては計算されていて、子供が学ぶ楽しさを感じたり自分で苦難を乗り越えるための仕掛けがほどこされていました。
宝槻さんは高校に違和感を感じて辞めることになります。
父親に相談するのですが、「いいよ」と一言だけだったそう。
子供を信頼し、自主性を大切にする素晴らしい人ですね。
最終的に高校に行かず、大検を取って京都大学に進学して、卒業後探求学舎を開設しました。
ぶっとんだ父親の教育内容についてはこちらの本を読むと詳しく知ることができます。
子供の教育に感心があるお父さんにはぜひともおすすめしたい本です。
探究学舎では学校のカリキュラムに合わせた授業ではなく、「生物の進化」「戦国時代」「株取引」「算数発明」などのテーマごとの授業をおこなっています。
こちらの「探究学舎のすごい授業 元素編」では、元素をテーマにした実際の授業内容をすべて紹介してくれています。
読むと擬似的に授業を受けることができて子供が熱狂する理由がわかりました。
ここからは「探究学舎のすごい授業 元素編」から子供が自ら勉強したくなる授業の秘密を紹介していきます。
「問い」に対するこだわり
教育の世界では「発問」という言葉があります。
発問とは「どのタイミングで、どのような質問をするか」ということで、探究学舎はこの発問をとても大事にしています。
問にはすべて意図があり、授業の問いを考えるときには「この問をしたら何を考えるだろうか?」と常に考えて授業づくりをしているそうです。
例えば「元素編」では一番最初に「元素って何?」という問を子供に出しています。
そこで子どもたちはいろいろ考えて自分なりの答えを言いますが、宝槻さんはすべての答えを受け止め、まじめに返し、ときには質問で切り返します。
そうすることで「元素について誰も正確にはわからない」という状況を作り出し、「じゃあ元素ってなんだ?」と子供の中で関心が生まれるようにしています。
適度な感覚で最適な問いを子供に投げかけることで、
「なんだろう」→「そっか!」→「じゃあこれはどういうことだろう」→「そういうことか!」
と、頭に残りやすく気持ちよく学習する流れを作っています。
お手本としたのは「ドラゴンクエスト」などのロールプレイングゲーム。
主人公がちょっとずつ強くなるような体験が得られます。
ストーリー性を持たせた授業
学校の授業って「先生が教科書に書いてあることをひたすら読んでいくだけ」ってイメージありませんか?
ただ情報が流れてくるだけの授業って、自分が興味のあるもの以外は退屈で眠たくなります。
そういう授業は「授業をする側」の都合で授業が行われていて、「授業を受ける側」のことは考えられていません。
探究学舎の授業は常に「授業の受け手」つまり「子どもたち」がどう受け取るかということを意識しています。
授業にストーリー性を持たせるのもその一つ。
学校の授業では脈絡なく「元素記号」が登場して、必要だから覚えるように言われますが、探究学舎では人類が元素を発見していく過程を追体験しながら学ぶことができます。
過去の偉人が「元素」の謎を解き明かすストーリーを学びながら、偉人と同じように実験して体験することで授業にのめり込ませる仕掛けが隠されています。
そして、優れた物語のように所々に「伏線」をはって謎を残しておき、あとで伏線を回収することでその謎を解き明かす仕掛けもあるので、子供が夢中になるのです。
「報酬」や「競争」で子供のやる気を誘う
探究学舎の授業は黒板に書かれた内容を聞くだけの授業ではなく、自分たちで実際に手や頭を動かして考えることもします。
元素編の授業では、
- 元素カルタ
- 身近な元素を集める「元素でGO!」
- 分子模型作り
などがあり、子どもたちが夢中になっていました。
夢中にさせる仕掛けの一つに「競争」があります。
カルタは子供同士で競わせるのに最適。
そういえばドラゴン桜にも登場した教育研究科の「親野智可等(おやのちから)」先生もカルタは良いと言っていました。
もう一つの仕掛けに「報酬」があります。
一番になった子供に商品を与えることで、さきほどの競争心をさらに煽る仕掛け。
ぼくは今まで学習と報酬を結びつけるやり方は否定派でした。
報酬など外からの要因でやる気を出すことを「外発的動機」といい、自分からやりたいと思う動機を「内発的動機」といいます。
ぼくが報酬を与えることを否定するのは「テストで何点とったらいくら」など、学習に報酬を出すと子供が自分からやりたいという意欲「内発的動機」がなくなってしまうというアメリカの実験を知っているからです。
しかし、探究学舎の代表の宝槻さんは、「漢字の書き取り」や「単語の丸暗記」などのなかなか面白さが味わえない学習に関しては報酬を与える「外発的要因」が効果的であると考えています。
こちらの本にもその効果が書かれているとのことでした。
「学力」の経済学 /ディスカヴァ-・トゥエンティワン/中室牧子
漫画版も出版されているので、要点だけ理解したい方は漫画版がおすすめです。
まんがでわかる「学力」の経済学 /ディスカヴァ-・トゥエンティワン/中室牧子
「できた!」「見つけた!」を大切にする
話を聞くだけになりがちな学校の授業と違って、探究学舎では子供に実際に体験させることを大切にしています。
元素を発見した偉人たちの研究を疑似体験することで「できた!」「見つけた!」などの感動を味わうことができます。
元素編では、いろいろなワークを取り入れていましたが、一番すごかったのは「元素カルタ」。
最初は単なる元素のカルタだったのが、授業で新しい元素が紹介されて、カルタに新しい情報が加わり、最後にはきれいな元素表が出来上がる過程は素晴らしい。
子供だけでなく大人も夢中になること間違い無しの興奮を得られる仕掛けでした。
まとめ
授業のスライドをそのまま使い、授業中の宝槻さんの声や子どもたちの声をそのまま文字おこししてあるので、本を読んでいるだけで本当に授業を受けている錯覚に陥りました。
それにしても元素に興味を抱かせるようにグイグイ引き込む授業の進め方は本当にすごい。
活字で読んでこれだけ引き込まれるんなら、実際の授業は何倍もすごいのでしょう。
授業の内容の他に、授業を作るうえで大切にしていることなども書かれているので、こういった授業をしたいと思っている先生にも役立つ一冊です。