「預金封鎖」という言葉を知っていますか? 日本の借金が1000兆円を突破したいま、預金封鎖という言葉がなんとなく現実味を帯びてきたと思います。テレビでは信用不安を起こさないようにしているためか「預金封鎖」という言葉はあまり聞きませんが、本屋では預金封鎖を題材にした本がたくさん出ています。
そんな預金封鎖について元日銀マンである本吉正雄さんが書かれた本がこの「元日銀マンが教える預金封鎖」です。日本で戦前に実際に起こった預金封鎖についても紹介していて、借金1000兆円を突破した日本の未来を考える上で不可欠な一冊だと思います。
・著者「本吉正雄」とは?
著者の本吉正雄という人は大阪大学を卒業後、日本銀行へ入行し地域の経済リポートを書く仕事をした後、広報へ移動しました。そして、三洋、山一、拓銀の相次ぐ破綻があった平成10年の年末に広報で仕事をしているときに、多くの国民から自分の資産についての問い合わせを受けました。そのときに、日本の国民の金融に対する知識のなさから、これからは日本人に金融の教育が必要だと感じ、ベネッセへ転職し、その後、松井証券で勤務し独立し現在では作家、行政書士、ファイナンシャルプランナーとしていくつかの本を出しています。
・そもそも預金封鎖とは?
本書の名前でもある「元日銀マンが教える預金封鎖」の預金封鎖とは、国が国民の預金を封鎖して自由に引き出せないように預金の引き出しを制限することです。預金封鎖という言葉は「最新・日本経済入門―大インフレがやってくる!」という本で知ったのですが、その後、気になって他のいろいろな本を読むようになり、本書に行き着きました。「最新・日本経済入門―大インフレがやってくる!」はマンガで書かれていて、入門書や概念を学ぶものとしてはわかりやすくて良いと思います。
預金封鎖というのが注目を集める理由として、戦後に一度本当に預金封鎖されたときがあったからです。そのときは、戦中の軍事産業への支払いを一気にしてしまった日本政府のお金がなくなり、新たに税金を徴収する目的で預金封鎖が行われました。
・財産税のための預金封鎖と新円切替
預金封鎖の目的としては、信用不安で銀行の取り付け騒ぎを収めるための処置であるとともに、戦後に行われた預金封鎖の目的は「財産税」という税金の徴収にありました。財産税は乱暴な言い方をすると「持っている貯金の何割か税金として収める」というものです。要するにお金を持っている人から強引にお金を徴収する方法です。
財産税を徴収するためには国民1人1人から「誰がいくら持っているか?」ということを把握しないといけません。そのために預金封鎖という手段を使って一定の金額以上を一気に引き出せないようにします。しかし、そのままだと自宅に現金で保管している人の財産はわかりません。現金を国民から出させるために、新円切替で新しいお札に変更して、古い紙幣を使えないようにします。そうすると、家に現金で貯めていた人もそのままだとお金がつかえなくなるので、家からお金を持って銀行に行って新しいお札に交換しないといけなくなり、そのときに財産税が徴収されてしまいます。
預金封鎖と新円切替は財産税を徴収するために行われるのです。
・なぜ財産税を徴収するのか?
戦後、軍需産業に戦中の支払いをしたことで、市場に多くのお金が流通してしまったことによってハイパーインフレに陥りました。モノの価格が上がり、お札を枚数ではなくお札の厚さで計ることがあちこちでみられたそうです。
そのハイパーインフレを抑えるためには、市場からお金を減らさないといけないので、預金封鎖をして、新円切替をして、財産税を徴収しました。
・今後預金封鎖はおこるのか?
この本は多少古いのですが、この本のシナリオ通りに進んでいることもあります。この本を著者が書いている当時はまだデフレと呼ばれる状態で、モノの値段が上がらなくて困っているという話でした。
しかし、アベノミクスにより日銀が為替介入をして円安に誘導してからじわじわとインフレになってきている気がします。著者の本吉さんは日銀が市場に介入してインフレになるのが第一段階だと言っています。
国の借金が1000兆円というものすごい金額になっている今、普通のことをしていては借金は減りません。そのため、預金封鎖をして財産税を徴収する可能性は高いと言っています。
預金封鎖の予兆としての、国民の財産を把握するための仕組みは着々と進んでいる理由として、株券の電子化や海外資産の把握、預金通帳の本人確認などが進められているとということをあげています。これらは詐欺の撲滅やマネーロンダリングの阻止などの名目で推し進めやすく、国民の理解も得られやすいので着々と進んでいます。
・預金封鎖の対策は?
預金封鎖の対策についてもいろいろと書かれていましたが、「金を持つ」「外貨預金をする」などいくつかの検証をしていますが、この本によると外国の銀行で預金を運用し、海外で暮らすことが一番の対策だと言っています。
個人的に、いろいろと対策が思いついたのですが、こういったことをここに書いて良いのかどうかわからないので、これ以上は書けません。
しかし、この本を読むとやっぱり「預金封鎖」はSFではなくて、いつかは起こりうることなんだと思うと勉強して対策を取らないといけないと思います。
・まとめ
この本では知りたかった戦後の日本の預金封鎖の流れを明確に解説してくれるとともに、日銀の立場からみた預金封鎖がありえるという可能性などが書かれた面白い内容でした。途中、インフレのところはちょっと読み進めるのが大変でしたが、金融市場の勉強にもなり面白かったです。預金封鎖の本がいくつか出ていると思いますが「最新・日本経済入門―大インフレがやってくる!」を読んである程度理解できたら本書を読むと良いと思います。
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