書評(本)

「堂々たる日本人 泉三郎」の書評と感想

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 岩倉使節団という名前は明治に海外に視察に行った人たちということは歴史の勉強で知っていましたが、その背景や彼の状況、彼らの行動がどんなことに結びついたということまで考えたことがありませんでした。

 実際、本書を読むまでは岩倉使節団とは西洋文明のすごさに驚きながら海外旅行をする田舎者のようなイメージでしたが、劣等感を持たず場合によっては自分たちの方が優れているということを冷静に発見した視察だということがわかりました。そして、彼らが持ち帰った情報が今日の日本という国をつくる上でとても重要なものになっていること、現代では忘れがちであるが大切なものを思い出させてくれるものでした。

 

◆著者、本の概要

 著者である「泉三郎」さんは昭和10年産まれで一橋大学経済学部を卒業しています。岩倉使節団の記録「米欧回覧実記」の存在を知って以来その虜になり事業経営の傍ら、使節団のルートをたどる旅を続けています。現在「米欧回覧の会」を主宰し国内や海外でも映像公演をおこなっています。

 この本はその岩倉使節団の発足理由、発足当時の日本の状況や問題点などの背景、米欧に渡り見てきたもの感じたこと、日本との違い、さらには岩倉使節団が留守の間の日本の状況、帰ってきてからの仕事などについて原文を交えながらわかりやすく解説してくれています。

 

◆本の産まれた背景と気付き

 岩倉使節団とは明治政府が発足して廃藩置県を行ったあとすぐに実行された当時の日本のトップたちによる1年10ヶ月にもおよぶ長期間の海外視察です。そして、その時の記録「米欧回覧実記」からは当時の欧米の現状などが記されているとともに、当時の日本のトップたちが西洋の文明に決して劣等感を抱いていなかったことがわかります。

 「米欧回覧実記」は「観察が鋭く」「冷静に分析していて」「意見が公平で偏っていなく」「現象の背後の思想や原理まで考察していて」「表現力が豊か」であり、当時の日本人の能力の高さを知ることができます。

 西洋の文明をただただ視察しただけでなく、そのいきつく先が物質面での発展であり、それが個人主義のいきすぎにつながり風紀が乱れるなど現在まさに当てはまっているようなことも考察されていて驚きます。

 著者はそんな米欧回覧実記について知ってもらいたいと思い、本書を執筆しました。

 本書を読んでいて驚くことは、当時の文明国である欧米に対して日本を同列に評価、分析していて、ある面では欧米が優れているが、ある面では日本の方が優れているなど極めて冷静に多方面から評価していることです。

 政治体制のあり方では、日本の殿様は独裁政治ですが、その代わりに常に一番に民のことを考えることが当たり前になっているという点で良い面もあると言っています。共和制は国民が代表者を自分たちで選ぶという点では公平ですが、国民が選ぶ代表者が常に優秀な人ではなく、さらに多数決の場合は目先の議論に陥りやすく、自分たちの利益が優先され必ずしも良策が通るとは限らないという弱点についても書かれていました。

 「民主主義は公平で今よりも進んだ体制である!」と最初から決めつけないで、実際に優れているのか海外の事例や日本の状況などを踏まえてしっかりと考察しているところが素晴らしいです。

 本書ではこういった当時のトップの西洋と日本の「冷静な評価」が描かれていて、とても参考になります。

 

◆こんな人におすすめ

 本書はぜひ政治家に読んでもらいたいです。石原慎太郎さんが推薦文を描いているので「過激な思想の右翼的な本では」と思う人がいるかもしれませんが、実際に石原慎太郎さんが言いたいことがこの本からも伝わってきますし、そんなイメージだけで人を判断しないで冷静に理解するというのに本書は役立つと思います。

 こういう本を読んで冷静に国の将来を考えられる当時の日本のトップのような人たちに、日本を背負う政治家になってもらいたいですね。

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